日本を愛し永住/客観的なまなざしに思わず脱帽♪

ドナルド・キーン自伝 増補新版,ドナルド・キーン,角地幸男訳,中公文庫.

今週末には戦後75年を迎えます.あと四半世紀すれば戦後100年,そう1世紀を経過してしまいます.

今コロナで苦境に立っている私たちにとっても,戦争という先の見えない時代には,生きることや毎日を過ごすことさえも多様な困難さがそこかしこに満ち溢れていたということは想像に難くないでしょう.

そのような先の大戦の中で,日本兵の非日常的な場面での日常的な心の動きを,この書では他国の者として関わり,客観的に捉え著されています.

私がキーンさんのことを興味を持ったきっかけは,キーンさんの書「日本語の美」に出会ってからです.
日本語のとても短な言葉のなかに見られる様々な意味や風合いを私たち日本人よりさらに探求されて,親しみを持って示されていらっしゃいます.私はそれまで,日本語を使っていても日本語の美しさを感じたり考えたことがなかったように思います.このため彼に大きな興味をもったのです.常々,彼が日本を知ったきっかけや,その強い思い自体を是非知りたいと思っていました.
残念ながらキーンさんは一年ほど前に鬼籍に入られました.メディアで彼の逝去を知って心から残念な思いを持ちました.
きっと向こうでは親交のあった三島由紀夫さんや川端康成さんと文学談義に花が咲いているかもしれません.

 

さてこの書の初版は東日本震災の年です.この年に彼は日本に帰化されていらっしゃいます.このことは彼からの強いメッセージであるように感じさせるものがあります.
キーンさんは日本について大学生になるまで知識も少なく,あまり強い関心は持っていなかったようです.

成長とともに異文化や多文化に関心を持ったその背景には世界を飛び回っていた父の影響があったように思います.

お父さまに憧れて欧州旅行を懇願し,思いが叶えられたたキーンさん.

初めて見る異国の地で実際に生活し,幅広い文化を体験する機会ができたようです.

この経験がきっとキーンさんの多文化を理解し受け入れる土壌を培ったのではないでしょうか.
大学生となったキーンさんはある時,東洋の文化に接して日本への興味が膨らんでいったようです.

同じ大学の仲間たちと東洋文化を学び研究しどんどん日本語の素晴らしさにのめり込んでいったそうです.

そして日本の記事や書物の翻訳や通訳を通して日本語の持つ味わいに惹かれたようです.

彼が日本語を上手くなるきっかけは戦時中に米軍の通訳として日本兵への尋問に関わったことだそうです.

本書に書かれた彼のこの思い出を読むと,先の大戦の凄まじさや日本人の思いを客観的に伝えてくれているように思いました.

日本人が日本人に語っている戦時中の出来事や境遇そして感性についての書や記録はたくさんあります.

本書は異国の文化で育ったキーンさんが語った記録として,ある意味,本音で語らう歴史のように思えて来ました.

この意味においても大変興味深い書であると思います.
キーンさんは戦時中に出会った日本人の大切にして来た哲学について「祖先の育んで来た大切なレガシーであり,記録し持ち続けるべきもの」だと教えてくれています.キーンさんが帰化されたことは,本人が日本を愛していたことは間違いないものだと思いますが,それ以外にも,身近過ぎて大切さから目を離している私たちに,しっかりと開眼し回帰する機会を与えるという使命感を持ったものだったのかもしれません.私たちもこのレガシーをしっかりと受け止めそして橋渡せたらと強く感じました.

 

ところで,本書を読んだことで重ねて興味を持ったことがあります.
それはキーンさんと親交のあった三島由紀夫さんのことです.

三島さんが自決したことはご存知の方が多いように思います.普段の彼の姿を語っている書として意味があるように思います.

自決した彼はいわば思想家ですが,作家という肩書は大変興味深いものです.

三島さんは大正時代に東京で生まれ育ち,書に親しみ,学習院の高等科を主席で卒業し,記念に天皇陛下より銀時計を授かったそうです.

彼の日本語の美しさも際立っていたようです.その文体には川端康成さんも一目置いていたようです.
自決からも想像つくように真面目で実直な面があると言えます.彼もまた日本を愛し日本を想って生きた人だったのではないでしょうか.

その中でも日本の言の葉を大切に扱った方なのだろうと感じました.


以前良書を話題にしましたが,三島さんが読書について指南した本もあるようです.

いずれ紹介できればと思います♪