モオツァルト,ベエトオヴェン,メンデルスゾオン,ワグネル,ゲエテ♪すてきなことばの響きとともに!

小林秀雄,モオツァルト・無常という事,新潮文庫


タイトルを見てだけで,手が伸びてしまう一冊です.


表題のうち「無常という事」は高校の教科書にも取り上げられているほど有名な作品です.

短いながらも奥深さがあり,著者は批評家としての才覚は大変素晴らしいものと言えるでしょう.      


 本書は表題2作品を含めて,16作品のオムニバスです.なかには,西行蘇我馬子雪舟のように歴史上有名な方々,そして,鉄斎・光悦と宗達など著名な芸術家たちの人物像をさまざまな資料をもとにひもといた作品が含まれています.

    ここにある共通の主題は生きることと,感受すること,表出することの一体性と個別性かもしれません.


 批評家と言えば論理意的な思考の元で,簡潔明瞭な論述が主流ですが,本作品はその明晰な思考を表現豊かな論調で読者をうならせる味わいを持ってるように感じさせてくれます.

 

  さて,今回取り上げるのは,モオツァルト♪です.

 この表記にとても惹かれています🎶

    とてもレトロな感じで味わいがあり,ことあるたびに使ってみたい表現の一つです♬

    もし辞書や書物にまたそのような表記を見つけられたら,とても胸がときめくのは私だけでしょうか?

 

 西洋音楽が我が国にもたらされた時期は江戸時代の初めころだそうです.キリスト教の伝来とともに西洋の音楽,コーラスが紹介されたそうです.しかし鎖国の影響下では,庶民にはその美しい楽曲を耳にする機会すらなかったと思われます.
   江戸時代の終焉は,文明を開花させる好機となり,それまで一部の要職者や特権階級者だけが耳や目にした可能性のある西洋の文化,美術や音楽を含む多くの芸術が,一気に花開いた瞬間とも言えるのではないでしょうか.

  それでも,例えば西洋音楽クラシックがより身近にあったとしても、まだクラシックが高貴で気高いものとして,一つ一つの作品に私たちが出会うたびにきっと大きな驚きや感動,そして深い思索の時を与えたに違いありません.

モオツアルトを耳にした方は現代と同様に繰り返される主題の美しさにきっと魅了されたことでしょう.

    本書で著者が例示していること,はじめてベエトオヴェンの“運命”を耳にした時の驚嘆や神秘性あるいは畏敬などの感覚は,令和の今の時代にあっても,何か新鮮な気づきであるように感じられるものです.

   著者は著名な批評家として数多くの作品を輩出されていらっしゃいますが終戦後の前後は書が滞っていたようです.きっと筆が思うように運ばず,たくさんの思索を巡らせて、その誕生のときのエネルギーを十二分にためていたことでしょう.

   著書がモオツァルトやベエトオヴェン,ゲエテ,ワグネルを知った時の感動はもとより,その熱いパッションに加えて,彼独特の精緻な批評的分析の傑出とも言える作品を世に出したことはとても意味深いものと考えます.

    内容の難解さは否めませんが,とても強いメッセージだけはしっかりと感受できたような気がしています.


   本書の構成は,序としてモオツアルトと他の芸術家たちの違いからの問題提起、本論として,モオツアルトの音楽の要素と30代前半までの短い人生を楽譜や手紙からの分析,そして結としてモオツアルトの人生を整理し論じています.

    著者の明晰を咀嚼すると、素晴らしい名曲の数々生み出したモオツアルトは神のような逸材であり,幼少期から青年期までとても人懐こく愛らしい凡庸さも兼ね備えた童(わらべ)であったように思います.モオツアルトは言わずと知れた“神童”ではありますが,童のように,きっと周りがほおっておけない愛らしさをも兼ね備えた音楽の神的存在と言えるのかもしれません.

     私の深読みかもしれませんが、こう考えるとますますモオツアルトを愛さずにいられないような気分になります♬

音楽をいつもとは異なった側面からたっぷりと味わうことのできる,とても豊かな作品だと思いました.

 

さて

   今年はベエトオヴェンの生誕250年とのことで,多くののイベントが計画されておりました.

  しかし昨今は世界中が災禍に見舞われています.劇場やサロンでの生演奏は耳にすることが難しいかもしれません.

   本来なら年末の風物詩,第九や運命,英雄などの交響曲ピアノソナタなどの楽曲が,年末のクライマックスに向けて街中に鳴り響き、私たちを楽しませてくれたことでしょう.でもさまざまな方法で楽しむ機会がきっとあるかもしれません.

   ちなみにスペインを冠する感染の災禍は1918ー1919年,この年の初夏6月に日本で初めて第九が初演されたそうです.

  日本もその後に彼の災禍に見舞われましたが,音楽が生きる力となったとすれば,大いなる特効薬と言えるでしょう.

 100年前も音楽があり,そこに作詞作曲する人,演奏する人,耳にする人がいて,この苦難を乗り越えてきたことと思います.

あれから100年の時を経て,私たちが対峙していることは,歴史に大きく刻まれる瞬間であると思います.

 

   そこでこの冬は著者のように,作品や作曲家について,作品が世に出されたその時代を思い描きながら耳をすませたら,普段私たちが慣れ親しんでいる名曲たちも深い感動とともに,新たな発見の時を与えてくれるような気がしています.

  本書は読むだけでも,頭の中で素適な音楽たちに出会うことができる作品だと思います♪  お時間があるときにぜひご一読を!