ワークバランス社会へー個人が主役の働き方,大沢真知子,岩波書店.
色々な立場の人々が今,この時にそれぞれ感じていることは,きっとこれからの仕事のことであり,日々の生活,これからの人生についてなのではないでしょうか.
急に舞い込んだ未知の脅威はこれまでの価値観を揺るがし,個人の問題解決能力をも既に超え始めているようです.
特に社会的に大きな課題を持つ方々にはとても辛い現実のように感じられるのではないでしょうか.
メディアで「生きる意味を失った」「希望が無くなった」と発する人たちを目の当たりにすることが増え,なんともやりきれない感じがしています.
でもこのような時こそ,変容の好機と考えられたらうまく乗り越えそうな気がしています!
さて本書は昭和・平成と続いたバブル期が終わり,学歴や年功といった神話が崩れその捉え方を見直す必要が求められていた2006年に出版されています.
岩波書店のハードカバーの書籍としてはややライトなイラストが表紙背表紙とかバーにあり臆することなく手にしていました.
でも内容は大沢先生集めた世界の知見と学生さんとともにしっかりと調査をした結果も含め,確かな根拠を提示したものです.
本書の構成は,我が国の現状から終身雇用制度,正社員神話への問題提起から始まり,働くことへの意識改革を提案するとともにワークライフバランス社会の未来を描いたものです.
どちらかというとライフワークバランス社会を構築しなかった場合に生じるさまざまな課題を明確にしているように見えます.
ここでいう仕事とは自分のためでなく他者へ提供する役割のようなものです.会社勤めだけでなく家事や育児,介護やボランティアなど幅広い捉え方ができそうです.
仕事の対価はお金に限らず,お金があっても手にすることのできない貴重な財産としての時間であるとしています.
このように仕事もしながら生きる意味,生活や人生の楽しみを持ち続けられるのが,まさにこのワークライフバランス社会だと捉えることができると思います.
しかし彼女が声を大にして提案した時代にも社会の格差は縮小されず,それぞれの価値観は受容されるというよりは,相容れない感があったように思います.
現在においては一層その差には領域として大きな隔たりがあるように感じられるのではないでしょうか.
だからこそもう一度読んで見たいと思ったのです.
著者が提案している世界は,それぞれの価値観を持ちその価値が尊重できるようなものです.近年,よりその傾向が強くなっているように思われます.
例えば現代の仕事のあり方はこれまでの正規雇用のあり方だけではなく,時間を各々がうまく使えるようなさまざまな形態が出現しているように見えます.
そのため一見して個々の生き方は以前よりは尊重されたように見えます.しかし真に意味で生きること,働くことのバランスは取れていないかもしれません.
また社会全体から見るとどこかに偏りや不協和音が聞こえてきそうな感じがしています.
この現実から,つい目を背けてしまいそうです.美しいものに憧れますが,そうでないものを見て見ぬ振りをしてしまうのかもしれません.
そうしてはいけない.
ミクロな部分としてそばにいる,前を向けなくなった人たちを支え,
そうならないようなマクロな社会の仕組みを一人一人が思い描く,そのような時期かもしれません.
私たちの手の届かない危機の中で,大きな社会構造の変化が起こり始めている今,一人一人がこのことを考える好機だと思えるのです.
本書で示されている西洋の先駆的実践には学ぶことも多くあり,それを踏まえて我が国流にアレンジして制度として適切に変容することが肝要だろうと思います.
本書で紹介されている方法の一つ,オランダの働き方の例を紹介したいと思います.
共働きで二人の子どもの母で中間管理職として働く母親は週4日勤務で5日分の業務をこなすそうです.
もちろん給料は4日分なのですが,子供たちと過ごす時間を報酬として得ていると捉えているようです.
このため雇用者も労働者もWINーWINの関係としています.
このようなワークライフバランス社会には制度の改善,いわば具体的な「働き方改革」の創出がまさに我が国にも求められているように思います.
今を大切にして,そばにいる人にはもちろんのこと,
多くの人々が夢や希望を持ち続けられる仕事や生活の場が,持続する社会を一人一人がつながることによって実現して行くこと!
このためには何が必要なのか.
自分は何ができるかを深く問うことのできた一冊でした.
ひつとだけ自分もできそうなことを紹介しましょう♪それは共鳴するということです!
目に見える,あるいは耳で聴いて,はたまた五感を使って,他者とつながること!
個別性を大切にして生きていく時代だからこそ自分のそばにいる相手の思いや所作を心で感じて,呼応するようにつながること.そうすれば何か自分にもできそうに思います♪
チャンスがあれば,ご一読を♪