アガサ・クリスティ,中村妙子訳,春にして君を離れ,早川書房.
新年度が始まったというのに,
どことなく春休み気分から抜けきれないまま,
大型連休に突入の今日このごろ,
いかがお過ごしでしょうか!
今週はずっと朝からいろいろな所用が重なって❗️
せっかく早起きしても🎶
誘惑にまけて!ついニドネ.
あわてて家を飛び出したありさま🥲💧
この季節は冬の終わりと夏の始まりの間で何とも言えない特有のまどろみを感じてしまいます.
旧年度の名残と新年度の戸惑いでしょうか.
つい去年の今頃,
世は新型の感染症で右往左往の状況下でした.
この一年ずっと,夢の中で過していたように感じられます.
そろそろ夢ごごちから醒める時かもしれません.
そんな私にぴったりな雰囲気の作品です♪
実は初めて手にしたのは発刊されてすぐの秋.
当初はミステリーではないサイコ・サスペンスとの噂もあり,恐る恐る手にした私です.
とにかく砂漠の中でひとりぼっちでいること!
話す相手も,行うべきことも尽き果て,自分と向き合うたっぷりの時間❕
怖さしか覚えていない程の作品でした.
時間があまりある現状に何処かとても似ているような気がします.
さて本書は,3人の子育てを終えて,夫と悠々過ごす女性,ジョーン・スカダモア.
末娘の病気を見舞うため母親として,英国クレイミンスターからはるばる中東へおもむき,オリエント急行に乗車するため,レストハウスで搭乗駅へ向かう乗合バスを待っている場面からスタートします.
そこで会うとは思っていなかった旧友と再会するのです.
そこからジョーンの振り返りの時が始まります.
ジョーンは中流階級育ちで,女学生時代に華やかな浮き名を持つブランチに出会い,何か気まずさを覚えます.
思い出,特に多感な時期のことは,良い出来事,しあわせのこと,自分には関係なくて良かったと思うエピソードを紐解きがちなのかもしれません.
それ以外の苦い心持ちがあることは,心の盾ともいうべき,とてもすごい作用でタンスの奥深くにしまい込めるようです.
だから都合の悪いことを原初的諸感覚でつい逃れようとするのでしょう.
ジョーンにも何か思い出したくない,ブランチから訊かれたくないという気持ちが生じてしまったようです.
でもブランチと離れたジョーンは予想だにしない強烈な経験をします.
ジョーンがオリエント急行に乗車するためのレストハウスへ向かうため自ら選んで乗ったバス🚌!
道もガタボコ!荒れたはてて,さらにぬかるんで足を取られてしまいます.
ひどい乗りごごちに加えて,乗るはずだった電車はなんと既に駅から離れて🚉行ってしまったのです.
「電車はいつ来るかわからない」
「何もすることがない!」
「話す相手もいない」
「自分の望んでいる状況ではない」
暴れるわけでもなく,他罰的になるわけでなく,
全てを自分のせいにすること.
そして自分を見つめる,振り返る,そんな物語.
はじめて通読した頃の私には!
小説の背景が予想もつかないことばかりでした.
ひとりぼっちになるってどんな感じだろうか.
することがないってどんな気分になるのか.
ふたたび精読した私には何か情景が浮かんできました.
不思議ですね.きっとこのご時世のステイホームが状況理解を手伝ってくれたのかもしれません.
「あの時,彼女が言おうとしてたの?」
ジョーンは次第にこれまでの人生を振り返っていきます.
「あの時の彼はなんだか生き生きしてたように感じられる」
「私としばらく離れるから,きっと悲しんでたと思っていたのに」
「今思えば束縛から解放されて若さを取り戻したように思える」
「私は家族のことを本当に理解してきたのだろうか」
このような思いから,家族と友人語らう,自分の気持ちを表出し,他者の心のうちを知り,受け止めることの大切さを実感していきます.
この旅が終わったらみんなと話そう!
理解して,許し許されよう!
このジョーンの振り返りと,これからの自らのあり方についての決意表明のような晴れ晴れした心持ちで,この物語が終わらない!ところが本書の魅力だと思います.
最後に家族の思いをちょっとだけ載せた結末は,続編を読者に委ねる醍醐味を与えてくれます.
私のこの一年の区切りをうまく整理する過程で,本書からたくさんの振り返りの時をいただけたように感じています.
きっと蜃気楼のような春のまどろみの時から,夏に向けたリフレッシュにつなげられそうです.
この一年思い立った断捨離の心のうちはどうやら重い腰をゆっくりと持ち上げつつあります.
でもこの本はまた読み返す予感がしています!
だからしばらく本棚に並べておこうと思います.
そして
タイトルの含まれている,シェークスピアのソネットはぜひ機会があれば読んで味わいたいと思います.
もしご興味を持たれた方は,本書のご一読を🎶