生を与えられた時から❣️はじまることがらとして🌟

アガサ・クリスティ,高橋豊訳,死との約束,早川書房


 アガサ・クリスティは,作品への着想を普段見聞きしたことから練り上げているそうです.

 この作品は再婚した考古学者のマーロンとともに,中東を訪れた頃のもので,描かれているエキゾチックな風景描写は,春を待ちわび,そしてステイホーム三昧🏠の私たちに異国情緒として,うるおいの時を与えてくれるようです.私もいつか行ってみたい異国の一つです.きっとクリスティーもたくさんの思い出をいただいた旅だったのでしょうね!羨ましい限りです.
 ちょっと前にTVにて和風にアレンジした番組のことを耳にして,書店にて購入しました♪
 読んでから番組を,と思っていましたが,残念ながらTVに先を越されてしまいました🥲
 いつもながら思うことですが,書を読むことと,TVや映画などで味わうことは異なる視点を持つもの!として,本書の魅力にたっぷりと接近いたしましょう!


 中東のいわゆる観光名所に,とある国から大家族で訪れた一行.
 ある夜,階下のバルコニーでただ事ならぬ会話をポアロは耳にします.
「いいかい,彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」
 この冒頭からはじまる本書,ポアロには声の主たちがつかめませんが,灰色の脳細胞はいずれこの声の主たちを見つけ出すことになります.
 大家族には,ある種の独特の雰囲気があります.母親である主人ボイントン夫人が,その家族を言葉の足かせで,たとえ旅行という非日常の世界であっても,かわらぬ過干渉,言葉の暴力などを繰り返します.
 読んでいても,いたたまれないこころ持ちとなってしまうのは,著者による策略かもしれません.
 この家族が気になってしまう二人の医師,一人は経験は浅いが,パッションのあふれるサラ,もう一人はベテランで一見,冷静な佇まいの精神科医ジェラール,二人はそれぞれの方略で家族の在り方を変えようと試みますが….
 サラが最後通牒として伝えたメッセージへのボイントン夫人の反論めいた声が,本作品の鍵となっています.
 物語の断片は実は愛別離苦の世界が見え隠れしています.
 ストレートに読めば,愛憎の塊のようにも感じられます.最後まで読み続けて見ると,ステイホーム期間中にも,どこかでこのような事態があったのではないかなどと,現代社会の病理のようにも感じられるものがあります.この物語の種は,きっとクリスティーの身近にあった!のかもしれません.

 クリスティーは幼い頃に外へ出なくても家族にいろいろなことを教えてもらい何不自由なく過ごしていたようです.このエピソードがこの物語にあるかもしれません.この物語は主人公は子供たちに何不自由のない生活の代償として,外の世界との交わりを禁じ,結婚した息子さえも母親の枠から飛び立てずにいたのです.登場人物の二人の医師👩‍⚕️👨‍⚕️がこの風景を変えてくれるキーパーソンたちです.二人の試みは結局うまくいきませんでしたが,もしも激情型のボイントン夫人の真の声,思いを知ることができ,彼女と家族を理解して,異なった流れへと誘えれば,きっと事態が変わっていたのかもしれません.誰かが生にとどめを刺さずしても,死が互いを分つことは,生の営みとして,約束された事柄と捉えてみることもできるかもしれません.このように思うと本書の風景は変わって見えてくるでしょう!

 クリスティーからのあたたかなメッセージと感じるのは私だけでしょうか.

 クリスティーだって,このような籠の鳥であっても素敵な大人へと成長し,私たちをずーっと楽しませてくれたのだから❣️


 クリスティーの社会派ものといっても良いかもしれません!
 ご興味を持たれた方は手にとってお楽しみくださいね♪