珈琲相場師,デヴィッド リス,松下祥子訳,早川書房.
コーヒーを物心ついた頃には,口にしていて,
多くの人が苦いと表現する味わいをなぜか,
ブラックであっても,
何かとろけるような甘さに取りつかれていた私には,本書のようにポケットにコーヒー豆を忍ばせることは,新しい楽しみになりそうです♪
さて本書は,その当時にコーヒーがまだ一部の特権階級にしか出回っていないコーヒーを売買し,その利鞘でこれまでの損益,負債をチャラにして,弟家族の家の地下に居候する生活から脱却しようと企てる相場師ミゲルの物語です.
相場の動きを読み,キツネとタヌキの攻防戦,誰が味方で敵なのか,はらはらのとまらぬ展開‼︎
そして物語の行く末を見届けるためには,読むことも想像することさえおぞましい表現もありました.
そのためか,本書を読破するには,半月以上かかってしまいました.
一方で,
ところどころに散りばめられている幾多のコーヒーについての表現にはとても魅了されてしまいました.
はじめミゲルも美味しいとは感じず,
色も味も興味は持っていなかったようですが,
ビジネスチャンスの予感とともに,
繰り返し味わうことで,
次第に虜になります.
「ビールやワインは眠気を誘うけど,コーヒーは目を覚まし,頭をはっきりさせてくれる.・・・」
「一口ふくむと,コーヒーはキスのように口に広がった.」
ハナはミゲルの弟のお嫁さん.
ミゲルの持ち込んだ珈琲豆の袋の香りに引き寄せられ,こっそりと持ち出し口にします.
その味わいと気分の高揚からやみつきになってしまいます.
「ハナは道々ひそかにコーヒーの実を食べていた.・・・そっと口に入れる.十二,三個食べたころには,なかなかおいしい,なんだかほっとするようだ,とまで思うようになっていた.」
ミゲルもさまざまな楽しみを模索しています.
「コーヒーを粗く挽いてから,甘いワインと混ぜた.・・・粉が底に沈むのを待って,ぐっと飲んだ.」
これらの表現に出会い,
珈琲の新たな楽しみを教えていただいた作品です.
そういえば学生時代の思い出に,喫茶店のマスターが自ら鍋を揺らしながら焙煎してくれたコーヒー豆を,味見と称していただいたことがあります.
もちろん先に焙煎して冷めているものですが!
その味ときたら,ナッツそのもので,小腹をそっと膨らませてくれる優しい存在だったと記憶しています♪
バイトの彼女は,煎りたての豆をさっとほおばり,通らしい語り口で,
“もう一息,火を入れていいんじゃない⁉︎”と話していたっけ!
彼女は,本書に出てくるハナ”にそっくりで,マスターがいない時でも,ぽりぽりとコーヒー豆を食べていたことを懐かしく思い出しました♪
今日は暖かい日和です☀️
ポケットにコーヒー豆を忍ばせて,心躍らせながら,出かけてみようか!と思います♪
そして夜は,手挽きのミルで粗く引いた豆を,東欧あたりのやさしい口あたりの赤ワイン🍷に浸して,ゆっくりと沈下するのを待ってミゲルのように珈琲を堪能したいと思います🎶
本書にはこんな素敵な味わいと,
ビジネスの世界の競争や人間性,そこに見え隠れする,私たちの理想と現実のはざまで揺れ動く心のありようを楽しめる作品です!
物語は一見ハッピーエンドのようですが,
相場師のミゲルや家族,周囲の人々にはまだ見えぬ波乱が待ち受けているかのようです.
続編が楽しみな作品です!
珈琲通はもちろん,チャレンジしたい人,
そして,ビジネスに関心をお持ちの方へ❗️
ぜひ珈琲をそばにおいて,
本書に触れる時をお楽しみくださいませ♪