あのコレクションは何処に⁉︎/ミニチュアサイズの名画を巡るミステリ♪

見返り美人を消せ,石井竜生・井原まゆみ,角川文庫.


 敬愛する三上延氏のビブリア古書堂の事件手帖の新作は丸ごと横溝正史の作品を取り上げています.これまでの作風とは少し違い,時の流れが解決の糸口となる描き方は,新刊を心待ちしていた読者へのオマージュにように感じられるものです.

誘われて横溝正史作品を!ではなくて,私なりに横溝正史氏に敬意を表して,趣向を変えて関連する本書,第5回横溝正史ミステリ大賞受賞作品を紹介いたします.


横溝正史ミステリ大賞横溝正史の没年から始まる新人発掘のための選考型賞です.

現在では横溝正史ミステリ&ホラー大賞と名を改めて,次回で第41回を迎えます.この投稿締め切りはちょうど明日ですので,いずれ機会があれば挑戦してみようかしら⁉︎


今回の作品の著者ら,石井竜生氏・井原まゆみ氏のご夫婦共作の作品として受賞時もとても大きな話題を呼んだ作品です.

その後も20年ほど前まで共作が続いており,なかなか興味深い題材をテーマに取り上げていますので,これからも本書を基に,続けて注目したい作家さんたちです.


さて本書は切手蒐集家の愛と欲望を巡るミステリーです.

    物語の舞台は,東京・神奈川・岩手です.

    GO TO TRAVELが始まって間もないですが,なかなか出かける機会がない今日この頃を思うと,舞台が変わる場面での電車乗車中は,さも旅行気分を興じている気分になります.

 岩手への旅は,今はなき急行八甲田です!

 望郷や郷愁に浸るにはぴったりな設定と言えるでしょう♪


主人公は古切手商の素敵な女性店主.この店主を中心に事件が起こります.早朝に店主宅のベランダから落ちたプランターで死傷する近隣の会社の守衛さん.

  店主は,行きずりの男性とともに一夜を明かし,翌朝に口論となった末の出来事と供述したため,事故として捜査が進められますが,とても巧妙に仕組まれた事件でした.

    事件にはいつも,その背景に起こるべきして生じたちょっとした気配がつきものです.手がかりとなる気配の一つがタイトルの見返り美人の切手です.事故を装った事件を裏付けた手がかりの見返り美人画切手のヒントをくれたのは小学生,鋭い観察力は,名探偵コナンや少年探偵団のような存在です.

 手がかりとなったトリックやその後のこの切手の所在は是非本書でお確かめくださいね♪

   トリックだけでなく,主人公が哀れにも殺害された姿にもこの絵をイメージに描写されています(この場面は個人的にあまり想像したくない構図です).

   事件の結末は,なんともやるせない感じがするほど,悲しい性の連鎖であります.救いがあるとすれば,事件を憎んで人を憎まずと言った作風で,登場人物の人物像を多様な視点で言及しているところです.

 そして少年からの手がかりで事件を解決に導いた切手好きの新米刑事と主人公の下でアルバイトしていた店員の恋路だと思います.このシーンで登場人物たちが悲劇を乗り越えて日常に戻る爽やかな終幕となっています♪


本書の魅力は単にミステリとして味うだけにとどまらないものがあります.

それは

「玉六のヨ」「アメリカーナ」「ニッポニカ」「南部切手」「エラー切手」「切手言葉」「大臣切手」,そして「記念切手の販売はマニアたちが99%が死蔵するからこそ成り立っている」など,興味をとってもそそらせる語彙や語録たちです.ぜひとも私の辞書に加えたいと思います🎶


また特殊切手の解説は物語というよりは,十分に調べられた貴重な歴史的事実と言えるものです.今でも希少価値のある切手に関する取引はオークションなどで盛んに行われているところを見ると,本書に出てくる数々の事件の背景は,受賞時の1985年の頃,そうバブルまっただ中の頃は,実際にあったのかもしれないと感じさせるものがあります.

 両著者はきっとその切手の魅力と魔力を思い描き,読者の心を引きつけたのだろうと思います.

 そして私の手にした書の装丁は,写真集,美術解説書のようです.この点からも星を増やしたい書の一つです.

 本書中にもさまざま切手の写真があり,愛好家に楽しめる作品のように感じられます.


 そういえば,私も小学生頃に幼なじみと使用済み切手の収集からお正月に出る記念切手の購入へと切手の魅力に誘われた記憶があります.描かれた題材が文化財の紹介や地元の復興を祈念するもので,鮮やかな色彩とともに切手は小さな名画のようであり,全国の地名や文化財,名画の名前は学校で習う社会科や図画工作などでちょうど目や耳にする機会が増えたところで,見るだけでも心躍る楽しさを感じたひとときでありました.

    いつしか集めた切手は収集帳からあふれ出て,気がつくと,いくつかの切手は見守る家族の手によって洒落た額縁に居場所を変えて寝室の梁に掛けて飾っていただいておりました.

 今はいったどこにあるかは知るよしもありませんが,幼き頃のとても良い思い出です.

 と言っても,この書を読むまですっかりと忘れていましたが❣️

この書を機に私の愛好心は再燃するかもしれません.

 まずは手持ちの使用済み切手を整理して眺めたいと思います♪ あなたもいかがでしょう!